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近年世界的に普及してきた治療法で、主に大腿部から挿入されたカテーテルと呼ばれる細い管を用いて治療を行います。脳や頸部の血管に留置されたカテーテルから様々な治療機器を挿入したり、薬剤注入を行うことで、脳や頸部の血管に対する治療が可能です。
当院では現在まで100例を超える脳血管内治療が施行されております。
発症から4.5時間以内の脳梗塞については血栓溶解薬であるrt-PAの静脈注射療法が広く行われています。しかし脳の太い血管(内頸動脈、中大脳動脈近位部、椎骨脳底動脈等)が閉塞した場合、rt-PAの含めた薬物療法だけでは十分な治療効果が得られない場合が多くありました(再開通率は3割ほどとされます)1)。
血栓回収療法は発症から8時間以内(症例によっては24時間以内)の脳の太い血管の閉塞に対して行う治療法です。ステントリトリーバーや吸引カテーテルといった機材を用い閉塞した血管を再開通させることが可能です。近年の治療機器や手技の改良で再開通率は7割を超えております2)。十分な再開通が得られた場合、脳梗塞による症状がなくなったり後遺症が軽く済んだりする可能性が高くなることが当院でも経験されています。
日本脳神経血管内治療学会からの報告よると、国内の脳血管内治療が占める比率は、2001年の11.8%から直線的に増加しており、2019年の48.7%から2020年は初めて半数を超えて51.7%になっております。早期に普及した海外の脳動脈瘤治療に占める血管内治療の比率は、米国では7割、フランスでは9割に達しています3)。
脳動脈瘤に対しては以前から開頭クリッピング術が行われています。一方で脳動脈瘤に対する血管内治療は近年発展してきた比較的新しい治療法です。動脈瘤の中にカテーテルを留置しプラチナ製のコイルを動脈瘤内に充填し動脈瘤を閉塞させます(コイル塞栓術)。動脈瘤の状態によっては風船付きのカテーテル(バルーンカテーテル)や金属の筒(ステント)を併用し動脈瘤を塞栓することもあります。
開頭クリッピング術と比較して、切らずに済む手術ですので患者さんへの負担が少なくて済む利点があります。一方で、血栓を予防するため血液が凝固しにくくなる薬剤を一定期間服用してもらう必要があったり、開頭クリッピング術と比較して再治療が必要になる割合が高いといった欠点もあります。当院では、動脈瘤の位置、サイズ、患者さんの全身状態などを検討し、治療を行っています。
脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜で覆われており、脳動脈はくも膜と軟膜の間に存在します。このため動脈瘤が破れるとくも膜と軟膜の間に出血が起こり、この状態をくも膜下出血と呼びます。
一般的に、死亡率が高いうえ救命できても重い後遺症を残すことがある重篤な病気です。
破裂脳動脈瘤の症状
破裂脳動脈瘤に対する血管内治療について
破裂した脳動脈瘤の治療はまず動脈瘤からの出血を止めることです。破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の方法そのものは、未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術と基本的に同じです。
当院では患者様の状況に応じてコイル塞栓術と開頭クリッピング術いずれかを選択して行っております。またくも膜下出血後に3割程度発症するとされる脳血管攣縮に対し薬剤の動脈注入も行っております。
首にある頸動脈という太い血管が狭くなる病気です。
頸動脈は顔面や頭部の皮膚や筋肉に血流を送っている外頸動脈と、脳や眼球に血流を送っている内頸動脈に分かれますが、頸部頸動脈狭窄症はこの内頸動脈の根元が狭くなり血液の流れが悪くなり脳梗塞の原因となる病気です。
生活習慣病が基礎にあることが多く、日本人の食生活の内容が欧米化するにしたがい徐々に増加傾向を示しています。
狭窄が強くなってくると脳梗塞を発症する原因となり、言語障害、手足の麻痺、視力障害などが起こることがあります。
頸部頸動脈狭窄症に対する治療は、全身麻酔のもと頸部の皮膚を切開し、狭くなっている頸動脈も切開した上で狭窄の原因となっている病変を切除するという頸動脈血栓内膜剥離術が以前からなされてきました。一方で、最近はカテーテルを用いた頸動脈ステント留置術が普及してきております。
これはカテーテルを使って狭くなっている頸動脈を血管の内部から広げるという治療法です。風船付きのカテーテルを用いて狭くなっている部分を広げたのち、広がったところにステントと呼ばれる編み目構造になった金属の筒を留置します。
局所麻酔で施行でき、傷が少ない(太ももの付け根に3ミリメートル程度です)のが利点です。また、最近はステント留置時に併発することがある散在性脳梗塞を予防するため、2重構造のステントも開発され、当院でも良好な結果を得ています。
当院では、これらの治療法の利点と欠点を十分考慮し、患者様に最適な治療方法を選択しています。
硬膜動静脈瘻、脳動静脈奇形は、脳の動脈と静脈の形の異常により起こる稀な病気です。通常とは異なる血液の流れができてしまうことで、脳出血の原因となったりけいれん発作や耳鳴り、認知症の原因となることもある病気です。
脳動静脈奇形は先天的な異常であることが知られていますが、硬膜動静脈瘻の原因は不明な部分が多く、いずれも出血を起こす危険性は年間1.5から8パーセントといわれています4), 5)。
出血を起こすと激しい頭痛や嘔吐、手足の麻痺や感覚の異常、言語障害や意識障害などが起こります。出血しない場合でも、けいれん発作や耳鳴り、目の充血、認知障害などの原因となる場合があります。何も症状がなく、頭部MRIなどの検査でたまたま発見されることもあります。
いずれの病気も血管の異常が頭の中のどの場所にできたかによって治療法が大きく異なります。頭の皮膚や骨を切って行う開頭手術が適していたり、切らずに行う放射線治療が適していたりする場合があります。
血管内治療もそれらの治療法のうちの一つであり、血管異常の場所、大きさ、形などにより治療方法を選択しています。
カテーテルという細い管を用いた血管内治療は一般的に患者様への負担が少ない治療法ですが、血管内治療が危険な場合もあり十分な検査を行った上で手術適応を判断しています。
主に髄膜腫に対する開頭摘出術前の処置として行います。髄膜腫は血流の豊富な腫瘍であり、開頭摘出術に際し術中の出血が大きな問題になります。大きな髄膜腫の摘出手術では大量出血のため輸血が必要になることもあります。
そこで、開頭手術の際の出血を最小限に抑える目的で、開頭摘出術前に腫瘍に血液を送っている血管をカテーテルを用いて閉塞させることがあります。これにより摘出時の出血を抑えることが可能となります。
当院では頸動脈血管解離、外傷性仮性動脈瘤や難治性慢性硬膜下血腫などに対しても血管内治療で治療し、軽快されております。
1)津本智幸 その他 tPA 静注療法・血栓回収療法の現状と課題Jpn J Neurosurg (tokyo)27:505-513 2018
2) 木村 和美 大きく変貌する脳卒中診療 内科学会雑誌 109 巻 9 号 1938-1944 2020
3)坂井信幸 スピリッツとサイエンス 理事長公演 第37回日本脳神経血管内治療学会学術集会 10/26 2021(福岡)日経メディカル2021/12/2
4)横井 俊浩 その他 脳動静脈奇形の急性期外科治療 脳卒中の外科 41: 21 ~ 26,2013
5)里見純一郎 その他 硬膜動静脈瘻の病態把握(判断)と治療(行動)Jpn J Neurosurg (tokyo)25:42-45, 2016
(文責:布施 孝久)
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