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「水頭症」とは、一言でいえば、頭の中に水が溜まってしまう病気です。
頭蓋骨の中は、脳が水(脳脊髄液といいます)に浮いている状態です。そこへ、水が増えて溜まってしまうと、脳は頭蓋骨の中に閉じ込められて行き場がなくなってしまい、脳が圧迫されることで具合が悪くなってしまいます。
具体的には、歩行障害、排尿障害(尿失禁など)、認知障害といった症状(とくに、歩行障害)が見られるようになります。
このうち、歩行障害が多い。
水頭症には、くも膜下出血等の後に合併症として起こる続発性と、明らかな原因がなく起こってしまう特発性の2つのタイプがあります。
今回は、特発性正常圧水頭症についてわかりやすく解説していきます。
特徴は、高齢者に多く見られ、症状が徐々に悪化します。
典型的な経過は以下の通りです。
「これまで特段大きな病気をしたことがなかったのに、1~数年前ころから徐々に歩くスピードが遅くなって、若い人によく追い抜かされるようになり、最近は、小刻み歩行が目立ち、とくに方向転換時にふらつくようになって、先日は、転んで怪我をしてしまった。怖くて外出ができない。また、トイレでの排尿が間に合わず、失敗するようになり、さらには、物忘れも気になる」
(参考基準)
(新井一.脳21:41-45, 2011)
Evans index =側脳室前角最大幅(A)/頭蓋内最大横径(B)
>0.3の場合、有意な脳室拡大と判定する。
(難病情報センターHP「正常圧水頭症」より)
上記8項目は、いずれも重要なポイントですが、最も重要なのは症状(とくに歩行障害)です。患者様自身が困っているかどうか、「昔はこうではなかった」とか、「歩くと転びそうで、怖くて外出できない」といった切実な訴えがあるかどうかを、治療の判断基準としています。画像所見も非常に重要ですが、画像だけで診断することはできません。画像は典型的でも症状のない方は、「AVIM」と呼ばれ、定期的な経過観察が必要とされています。
また、脳萎縮、認知症、白質病変、脳梗塞、パーキンソン病といった他の疾患との鑑別も、非常に重要です。なぜなら、症状の原因として他の疾患による影響が大きいのであれば、手術をしても症状の回復に期待が持てないからです。そのため、鑑別診断は慎重に行います。
脳萎縮などによる認知症の可能性のほうが高い場合には、認知症専門外来をご紹介します。
治療方法は、主に、手術となります。残念ながら、薬の効果は期待できません。稀に、タップテスト(腰椎穿刺により脳脊髄液を約30ml採取して、症状が良くなるかどうかを調べるテスト)の後に症状が改善し、手術せずに済む方もいらっしゃいます。
手術の名前は、シャント術といいます。以下に具体的なやり方を説明いたします。
腰から針を刺して、針の内筒を通して細いチューブを15cm程度挿入し脳脊髄液を排出させ、チューブは皮下に埋め込んで、反対側のチューブ断端をお腹の中(ダグラス窩)に留置します。したがって、チューブ全体は、腰からお腹へと、通常、左側の脇腹の皮下を通して埋め込まれることになります。
脳室という、頭の中の水が溜まった部屋に、通常、右前頭部からチューブを刺しこんで、そのチューブを皮下に埋め込み、反対側のチューブ断端はお腹の中(肝上面、ダグラス窩など)に留置します。結局、チューブ全体は、右前頭部から右耳の後ろを通り、右鎖骨の上、右前胸部を経てお腹へと、皮下を通して埋め込まれることになります。
脳室に、通常、右前頭部からチューブを刺しこんで、そのチューブを皮下に埋め込み、反対側のチューブの断端は、右頸静脈の中に挿入して、右心房内に留置します。したがって、チューブ全体は、右前頭部から右耳の後ろを通り、右頚部から血管の中に入り右心房内へと、皮下を通して埋め込まれることになります。
(日本脳神経外科学会HPより)
以上の3つの方法がありますが、通常はV-PシャントかL-Pシャントのどちらか1つが選択されます。
症状の改善率は以下の通りです。
歩行障害 | 60~77 % |
---|---|
排尿障害 | 52 % |
認知障害 | 56~69 % |
(特発性正常圧水頭症診療ガイドライン第3版による)
特徴は、歩行障害が最も改善しやすい ということです。
シャント術は、細いチューブを体内に埋め込み、頭蓋・脊髄内の脳脊髄液を腹腔内などへ流し込むようにする手術なので、以下のような合併症(有害事象)があります。
上記ガイドラインによれば、これらの合併症の頻度は18.3%と報告されています。
1.外来受診(初診あるいは紹介)
問診、診察、MRI検査の予約をします。とくに、歩行障害の状況と日常生活上のお困り具合を確認します。
2.MRI検査
3.外来で結果説明
DESH等の有無を確認します。症状と画像所見を総合的に検討し、以下のタップテストに進むか、外来でそのまま経過観察するかを判断します。
4.タップテスト目的入院
(1回目入院)
*入院しない場合もあります。
通常、月曜日入院、水曜日腰椎穿刺(髄液採取)、土曜日退院の6日間の入院です。入院中に歩行テストと認知機能検査を2回ずつ行い、腰椎穿刺の効果を判定します。
5.自宅退院後、しばらく様子観察
歩行状態がその後改善するのか、あるいは、徐々に悪化するのかなどを、ご家族等に観察して頂きます。
6.退院後初回外来(約2週間後)
退院後の様子から、シャント術をしたほうがよいかを判断します。シャント術をお勧めしない場合には、そのまま経過観察となります。
7.シャント術目的入院(2回目入院)
通常、火曜日入院、木曜日手術、翌週木曜日検査・抜糸、その週末に退院の、約12日間の入院です。患者様の状態に応じて、入院を延長して歩行リハビリをしばらく継続することもあります。
8.自宅退院して、外来にて経過観察
(約半年間)
合併症が出現しないかどうかを慎重に観察します。状態が安定すれば、外来に通院する必要はなくなります。
(文責:福永篤志)
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