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硬膜下血腫とは脳を包む3枚の膜のうち、硬膜という1番外側の膜とくも膜という2番目の膜の間に血液がたまった状態のことです。硬膜下血腫には急性と慢性の2種類があり全く異なる病態です。
急性硬膜下血腫は交通外傷などの強い外力が頭部に加わった際に生じる出血が原因となり、頭痛や吐き気、意識障害といった症状が急速に出現し、症状によっては緊急開頭手術を要する状態のことです。
慢性硬膜下血腫は比較的軽微な頭部打撲をきっかけとして、その後数週間程度かけて硬膜下腔に徐々に血液が貯留し、脳を圧迫することで運動麻痺や言語障害、認知症のような症状を起こしてくる状態のことです。
この項では後者の慢性硬膜下血腫について説明します。
前項で述べたように、軽微な頭部外傷が原因となることが多いですが、はっきりしたきっかけがないこともしばしば経験します。リスク要因としては、高齢であること、飲酒、抗血小板薬・抗凝固薬(いわゆる血液サラサラにする薬)内服、血液凝固障害をきたすような疾患にかかっていることなどがあげられます。
血腫の量が少ない時点では無症状のことが多いです。血腫が貯留してくると血腫と反対側の運動麻痺や言語障害、認知機能低下といった症状が出現し、徐々に悪化、よく転ぶようになります。比較的若い方に発症すると、はじめに頭痛が出現することがあります。高齢の方でも両側に血腫がたまっている場合には頭痛が主症状となることもあります。
頭部CT検査にて硬膜下腔の血腫を確認することで診断することができます。前述の症状があってもCTで硬膜下血腫を認めない場合には脳梗塞などの他の疾患を考える必要があります。
血腫の量が少なく、無症状の場合には外来で経過観察することが多いです。その際は五苓散という漢方薬や止血剤を処方し内服していただきます。
症状がある方の場合、血腫量が多いことがほとんどで、経過観察をしていては症状が進行し、より重篤な状態となりますので、手術が必要になります。そのため、来院日に入院していただき、ほとんどの場合入院当日もしくは翌日に手術を行います。
局所麻酔で行います。
必要に応じて点滴から鎮静剤を投与し、少し眠った状態で手術を行います。
血腫がたまっている側の側頭部に約4cmの皮膚切開をおき、直径1cm程の孔をあけます(これを穿頭といいます)。硬膜を切開し、血腫を排出させ、必要に応じて血腫腔内(血腫のたまっているスペース)を洗浄します。その後、ドレナージチューブを留置し閉創します。
手術所要時間は約30分です。
両側に血腫がたまっている場合は、1回の手術で両側とも手術を行うこともあれば、症状の原因となっている側の手術のみ行うこともあり、患者さんごとに方針が異なります。
合併症としては、感染、出血(急性硬膜下血腫など)、術後けいれん、局所麻酔アレルギー、創部のトラブルがあげられます。
通常、手術後1週間で抜糸を行い、退院可能となります。その間リハビリを行います。
手術前の麻痺が重度であったなど、リハビリを要する場合には入院期間を延長してリハビリを行います。また、リハビリ病院へ転院してさらに長期間のリハビリを要することもあります。
慢性硬膜下血腫は再発する可能性(10〜20%程度)があります。
再発の予防のため、五苓散や止血剤の内服をしていただき、退院後も完治するまでは外来で定期的に頭部CT検査を行います。
再発をした場合、血腫量が多ければ再手術を行うことがあります。再手術は前回の骨の孔を用いて行うことが多いですが、血腫の分布によっては新たに孔を設けて手術を行うこともあります。
慢性硬膜下血腫による症状はほとんどの場合、手術を行うことで改善します。しかし、症状出現からの期間が長くなればなるほど症状改善の可能性が低下します。そのため、特に頭部外傷後数週間で気になる症状が出現した場合にはすぐに受診をするようにしてください。
(文責:佐々木 正史)
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